宇宙科学研究所主催「宇宙学校」レポート


2003年2月1日、東京のとある大学で開かれました。 
参加者数は去年と同じくらいでした。
今年は2回目の参加になります。
主なものを取り上げて早速、本題に入る事にしましょう。


テーマ☆太陽系の謎に挑む

「世界初の小惑星サンプルリターン計画」・・・星の王子様に会いに行こう 

−講師・澤井 秀次郎 先生−

こちらの探査機はMUSES−Cと言われるもので、今年の5月に打ち上げられる予定
です。ミッション内容は小惑星、1998SF36を目標とし、小惑星を調査すると同時に
小惑星の表面のかけら(サンプル)を採取し、地球に持ち帰る事です。
地球以外の天体のサンプルを持ち帰るのは、アメリカ、旧ソ連が月で成功していますが、
それ以外の天体から持ち帰るのは、日本が初めての試みになります。
5月に地球をスイングバイし、それと電気推進エンジンにより、目標へ加速します。
そして、2005年に地球から3億qまで離れた小惑星に到着します。
小惑星に接近する際には、直径10cm位の大きさのターゲットマーカーを小惑星表面上
に落とし、それを灯台代わりに近づいていくそうです。
このターゲットマーカーには、インターネットなどで募集された88万人もの名前が
かかれています。(私の名前は載ってないな・・・ちょっと後悔)
小惑星の写真をX線、赤外線、可視光線により撮影します。
サンプルのかけらを採取するのは、ユニークな方法で、小惑星の重力がほとんどない事
から、ピストルの弾のような物を地表に打ち込み、壊れて跳ね上がってくるのをキャッチ
するのです。それをカプセルに入れて探査機が持ち帰ります。
他に探査機には小惑星表面上で活動する、ジャンピングロボットと言われるものが
搭載されます。そのジャンピングロボットは表面温度と細かい表面の写真撮影をします。
2007年に地球に戻り、カプセルは探査機から切り離され、
オーストラリアの砂漠地帯に落とされる予定です。

この計画は何を目的にしたのか?と言うと、
小惑星は太陽系が出来た頃の化石のような星と考えられていて、
太陽系がどのようにしてできたのか?その物質を分析したい事と、
小惑星から、サンプルを持ち帰る技術を確立したいという事だそうです。
どうして、その小惑星を選んだのか?と言うと、
理学的に見て、太陽系を調べるのに都合がいいと言う事、
1998SF36小惑星は、ラグビーボール風な500m位の大きさがあるそうです。
そして、中には”行ってはいけないという小惑星 ”もあるそうです。
これは意味深な発言でした。生態系や環境を壊す可能性があるからとか・・・・。
澤井先生、ありがとう。

澤井先生に個人的にお伺いした事がありますが、
金星探査に金属の気球を使う計画は、地球から見たら考えられない激しい大気の状態や
動きを調べると言う事で、地上の撮影はしないと言う事でした。
何故に金属か?というのは、もちろん、布だと金星の熱い大気によって溶けてしまう事と
金星の大気が90気圧もあるからなのです。・・・
先生は火星のマリネリス峡谷にパラグライダーを滑らせてみたいと
おっしゃっていました。それは水の存在を確認するためだそうですが、
宇宙科学研究所の予算は少なく、実現するか分からないそうです。
是非、応援してあげましょう。(これには政治を動かすしか・・・)
国民一人一人の100円の税金で済むとか、私は千円払ってもいいです(笑)。

MUSES-Cホームページへ 

「宇宙と生きもの」 −講師・黒谷 明美 先生−

地球には沢山の生き物がいますが、地球の生き物には共通点があります。
体を作っているのは細胞で、人間は約60兆個もの細胞から出来ています。
肉眼でようやく見る事の出来るゾウリムシは、たったひとつの細胞から出来ています。
大きさや形は様々ですが、その基本構造は共通です。
細胞の中には、タンパク質の設計図があります。設計図は核酸の一つであるDNAの上に
アミノ酸の繋ぎ方を記号で書いたもので、この記号も全ての地球の生き物で共通です。
このような事から、地球の生き物は全て同じ祖先から生まれて来たと考えられています。
地球独特の「地球生物らしさ」とも考えられますが、地球以外で生活する生き物を
調べてみないと確かめられません。もしかしたら、宇宙のどこにいる生き物にも共通な
「生き物らしさ」なのかもしれません。
地球上に生き物が誕生したのは38億年前の大昔の事です。
地球には地球の独特の環境があり、重力、地磁気、一日24時間などに適応し、
進化し続けて来ました。・・・

宇宙空間でニホンアマガエルを無重力状態で離すと、体全体をそらし、手や足を伸ばした
姿勢をとります。これは、地上で高い所から飛び降りる動作と一緒です。
また、人体の状態は、飛行前は1G の重力がかかってますが、宇宙へ行くと0G になり、
頭へ血が上る状態になります。これは宇宙酔いでムーンフェースなどと言われ、
顔が膨らみます。2〜3日後には次第に体が慣れて行き、普通になりますが、
宇宙からの帰還後は足へ血が下がる状態になるそうです。
植物については、重力が小さな環境では細胞茎が薄くなり、重力が大きな環境では
それとは逆に厚くなる事が分かるそうです。

地球外生命体はいるか?という事ですが、
太陽系の中には生き物がいないだろうとおっしゃっていました。
(え?そんなわけはないと思いますが・・・)
太陽系外については、まだ良く分かってない、とはぐらかされてしまったようです。
・・・・残念。
他の科学者の話で、地球の汚染された空間で生き延びるには、体を作り変えるという
アイデアもあるそうですが・・・その絵を見せてもらいましたが、もはや人間では
ありませんでした。ひょっとしたら、別の惑星で環境下に応じてそういった生物が
存在するのかもしれません。・・・


テーマ☆未来の宇宙技術   

「宇宙ロケットの実現を目指して」・・・近未来の宇宙ロケット

−講師・成尾 芳博 先生−

漆黒の宇宙空間に浮かぶ青く透明な地球、・・そんな地球の姿を「自分の目」で
見る事が出来たらどんなに素晴らしい事でしょう。そして、「無重力の世界」を
体験する事が出来たら、・・・人生観が変わってしまうかもしれません。
選ばれた宇宙飛行士だけが経験できる世界を「誰もが体験できる時代」、
そんな時代がもうすぐ やって来ようとしています。・・・
その第一段階として考えられているのが、大気圏外に飛び出して高度100km以上の
宇宙空間を飛行し、数分間の無重力体験をして戻って来る、宇宙旅行です。
アメリカのSpace Adventures社を初めとする数社が、このような短時間の宇宙旅行の
ためのロケット・プレーンの開発に取り組んでいます。このような宇宙旅行は2005年
までには実現しそうです。費用は日本円にして約1250万円、多くの人が出かけるように
なれば、その費用はさらに安くなるでしょう。
次の段階は地球の周回飛行です。近年行われた宇宙観光用ロケットの設計としては、
マクダネル・ダグラス社の「デルタ・クリッパー」と日本ロケット協会の「観光丸」が
あります。この段階における宇宙旅行費用を億円の単位以下に抑えるには、飛行機のよう
に毎日頻繁に運行できる「乗物としての宇宙輸送システム」を開発しなくては
なりません。観光丸は50人乗りの単段式完全再使用型垂直離着式ロケットですが、
将来的には空気吸い込み式エンジンを用いたスペース・プレーンも実現するでしょう。
日本ロケット協会の検討によると、観光丸を50機製造して、一機当たりの年間離発着回
数を300回と仮定すると、一人当たりの旅行代金は200数十万円。また開発に必要な
期間は、予備開発段階も含めて約10年、試作機4機を含めた開発コストは1兆3000億円
と見積もられています。日本は現在、国際宇宙ステーションの一部を担当していますが、
その技術を応用すれば、「スペース・ホテル」の建設も可能になるでしょう。
宇宙旅行の具体的な準備はもう始まっています。
FAA(アメリカ連邦航空局)は、ロケットの打ち上げや帰還に伴う管制、ロケット本体、
乗員の健康状態などの規定について検討を開始しました。
NASAとアメリカ宇宙輸送協会(STA)も宇宙旅行などの宇宙産業の可能性を前向き
に捉えて、宇宙港についても概念検討を進めています。
技術的に克服しなくてはならない問題も沢山ありますが、民間投資による適度な資金が
投入されれば、「宇宙旅行」は事業として成立するとの見通しが得られています。
宇宙旅行に関しては、現在日本が1番進んでいます。

宇宙へ行った初の観光客はアメリカの実業家のデニス・チトーさん。
日本円にして、約25億円(!)も支払った方です。
ロケットでは約9割が、燃料になり、他が機体と荷物(乗客)になるそうです。

また、「X・プライズ」という、多額の懸賞金をかけたコンテスト?も存在します。
これはあくまでも、民間のチームで設計から打ち上げまでやってもらうというもので、
3人の90kgの体重がある大人を載せ、高度100kmまで行き、2週間以内で2回フライト
する事が条件との事です。

この他、
宇宙ゴミ(スペースデブリ)については、
宇宙ステーションにとっては、重要な課題で宇宙ゴミによる、塗料の剥がれ落ちなど
懸念されているそうです。回収のめどは立っていないという事です。・・・
また、反物質を使った研究については、アイデアの領域を出ていないそうです。


テーマ☆宇宙望遠鏡による天文学

「ブラックホールはX線で輝く」・・・見えないブラックホールの証拠を探して

―講師・中澤 知洋 先生―

人々が昔から見上げてき来た夜空には、沢山の星が美しくきらめいています。
実は、この宇宙は人間の目で極一部しか見ることが出来ません。
赤外線で見ると、普通の光では見えない冷たいガスや塵が見えて来ます。
そして、1億度くらいの熱い宇宙を見せてくれるのが、X線です。
X線を使うと、宇宙がいかに活発であるのか観測する事が出来ますが、
X線は地球の大気に阻まれて地上までは届かないので、人工衛星を利用するわけです。

ブラックホール。
アインシュタインの一般相対性理論が予言しているこの天体は、強力な重力で何もかも
吸い込んでしまい、光さえも脱出できないため、原理的にはこれを見ることが
出来ません。しかし、X線の観測により、ブラックホールはX線で明るく輝く事が分かって
来ました。ブラックホールに外からガスが流れ込むと、余りにも重力が強力なため、
強い摩擦力が生まれ、ガスが数千万度まで熱くなり、この現象がX線を大量に放射し、
「見えないブラックホール」のすぐ周りが、明るく見えるのです。
X線以外にも、可視光、電波などの観測から「ブラックホールでないと考えられない現象」
が沢山見つかっており、その存在はまず間違いないと考えられています。
我々の銀河の中には太陽の10倍くらいの重さのブラックホールが少なくとも十数個
存在する事、また銀河系の中心には太陽の100万倍以上も重い、巨大なブラックホール
がある事が少しずつ分かって来ました。

ブラックホールの先については、
ブラックホールの中は誰にも分からなく、それが分かることが出来たら、
「ノーベル科学賞!」ものだそうです。・・・

ブラックホールは成長するのか?という事については
成長すると考えられているそうです。

ブラックホールは増えていくのか?変形するのか?については、
ブラックホールは増えて行き、重さ、回転、電荷という特徴があって、
吸い込んでいくうちに変形する事もありえる、ということでした。

中澤先生、楽しいお話でした。


「宇宙望遠鏡による天文学」

―講師・和田 武彦 先生―

宇宙科学研究所で、2004年の打ち上げを目指した赤外線天文衛星、ASTRO-F。
このASTRO-Fは高性能の赤外線望遠鏡を搭載し、銀河誕生の様子や、
星、惑星の誕生の様子を明らかにできると期待されています。
ASTRO-Fに搭載する赤外線望遠鏡の口径はたった70pしかありません。
どうして、このような小さな望遠鏡をわざわざ宇宙に送り出すかと言うと、
宇宙から観測すると、地上からは見る事の出来なかった世界が広がっているから
なのです
よく晴れた日に空を眺めると、昼間は太陽が、夜は星が見えます。これは我々を
取り巻いている大気が「透明」だからです。しかし、透明に見える大気もX線や赤外線で
見ると大気はほとんど不透明です。赤外線で見た場合には、熱したストーブが赤く光って
見えるように大気は明るく輝いて見えます。そのため、X線や赤外線を使った観測は
宇宙から見る必要があるのです。
X線や赤外線で天体を見ると、我々の目で見える光(可視光線)で見た場合とは
全く異なった世界が見えて来ます。可視光線で見た宇宙は、太陽と同じタイプの星(恒星)
の世界です。しかし、X線で見ると星はほとんど見えなくなり、星の周囲の爆発現象や、
ブラックホールに落ち込むガスが超高温に熱せられている所など、荒々しい宇宙が
見えて来ます。又、赤外線で宇宙を見ると、宇宙空間に漂う低温の塵や、
その中で生まれつつある星、惑星が見え、低温の塵は銀河が誕生する時も大量に発生する
と予想されていて、これを捉える事が銀河誕生の謎を解く鍵になっています。

宇宙科学研究所では、ASTRO-Fに続き、X線天文衛星ASTRO-EUや太陽観測衛星
SOLAR-Bを打ち上げる予定です。さらに、宇宙初期の天体や太陽系外惑星の観測を
目指し、ハッブル宇宙望遠鏡を凌ぐ口径3.5mの赤外線天文衛星、SPICAを計画中です。
又、アメリカのNASAやヨーロッパのESAも、次々と宇宙空間に高性能な望遠鏡を
送り込もうとしています。
これによって、宇宙は様々な姿を見せてくれる事でしょう。・・・

ASTRO-Fホームページへ

ASTRO-EUホームページへ
 
この他には、ビデオ上映、新しいアイデアとして、大西 晃先生による、
ユニークな超小型衛星のお話がありました。

先生方、素晴らしい講義をありがとうございました。
私も陰ながら応援できれば、嬉しく思います。
この日が過ぎる前に忘れられない、事故がありました。
スペースシャトル、コロンビアの墜落事故です。
空に散ってしまった立派な7人の宇宙飛行士達に、追悼の意を。
二度とこのような事故が起こらない事を祈るばかりです。・・・

by緋月 

2003年2月12日初公開
    

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