独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部主催
2004年度「宇宙学校」レポート3 inTOKYO

テーマ☆銀河とブラックホールの世界

担当教官:山崎典子先生・松原英雄先生


「熱い宇宙」 山崎典子先生

X線というのは、レントゲンを撮る時に体に当てている、目には見えない光の一種です。
光の一粒一粒の持っているエネルギーが大きいために、体を通り抜ける事が出来るので
す。私たちは人工衛星を使って、宇宙から来るX線を観測しています。それは、1千万度、
1億度という熱く活発な宇宙の姿を明らかにしてくれます。

(波長:長い←→短い)
(電波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・ガンマ線)
(低い←→高い)
ではどんな天体が、X線を出すのでしょうか?例えば重さは太陽と同じ位なのに3km
(太陽の直径は約70万km)位に縮んでしまった天体はブラックホールになってしまい
ます。外からガスが重力によって集められ、落ちていくと、大きな重力のためにエネルギ
ーを得て、数千万度にまで熱くなります。ブラックホールの中に落ちてしまうと、
光でさえも脱出できないので直接見ることは出来ませんが、落ちる寸前のガスから出る
X線の輝きを観測する事で、莫大な重力の元が潜んでいる事が分かるのです。その光は、
時には千分の1秒の間に太陽の明るさの1万倍以上の変化を示します。
X線で見える宇宙は激動する宇宙です。

その他にもX線で輝く天体には様々なものがあります。生まれたばかりの原始星もX線を
出します。そして、星の一生の最後を飾る超新星爆発のエネルギーが、星間物質を暖め、
銀河の中にX線で光るガスを作っています。遠くからX線で銀河系を眺めると、きっと
淡いガスの光に包まれて、数100個のブラックホールや中性子星が輝いていることで
しょう。
 
また、1000個の銀河が1千万光年位の中に集まっているのを銀河団と言います。銀河と
銀河の間は普通の光では暗いのですが、銀河団全体の重力はとても強いために、
X線で見るととても明るく輝いています。

たいていの銀河の中心には、太陽の100万倍以上も重たいブラックホールがあると
考えられています。これらはクェーサーの仲間で太陽の10億倍以上のエネルギーを
放射してます。これを「活動銀河核」と言います。 
X線は、とても透過力が強いので宇宙の大部分からのX線が真っ直ぐに地球まで
(空気には止められますが)降り注ぎます。
アメリカのチャンドラ衛星が満月位の大きさの空を2週間観測し続けて、300個以上の
天体を見つける事が出来ました。空全体には数億個を超えるX線源があるのでしょう。
この宇宙は実は熱く、ダイナミックなものなのです。・・

X線で見る宇宙は、現在80億光年先位まで見つかっています。


「英雄(ヒーロー)という名の銀河」 松原英雄先生

最近、「すばる望遠鏡(ハワイ)」を使った天体観測で、何と「ヒーロー」と呼ばれる
天体が見つかって来たのです。
「ヒーロー」はおそらく星ではありません。銀河という、数百万から数千億個の星と
ガスの固まりである天体のとても特殊な仲間です。
「ヒーロー」とは、実は英語の名前で、Hyper Extremely Red Objectという英語の
頭文字を取って、HERO(ヒーロー)と言うのです。これを訳すと「とてもすごく赤い
天体」という意味で、あんまり赤いものですから、目で見える光では「すばる望遠鏡」と
いえどもほとんど見えず、赤よりももっと波長の長い赤外線だとかろうじて見えてくる
天体です。

(左図:赤曲線(太陽5700度)、黄緑曲線(地球0〜30度)、水色曲線(天の川に漂うチリ-240度)
(左軸:天体の明るさ1目盛り=10倍、下軸:波長0.01〜10000)
赤い理由の一つは、おそらく「ヒーロー」はものすごく遠くにあるからでしょう。
百億光年以上かもしれません。そんなに遠くにある天体からの光の波長は、宇宙の膨張に
伴ってぐんと引き伸ばされてしまい、もはや目で見える光では見えなくなってしまうの
です。もう一つ考えられる理由は、「ヒーロー」は非常に活発なガスから星が生まれて
くるよな銀河だから、という事です。星はガスとチリの雲が沢山漂っています。このチリ
が、星からの光を遮ってしまうのですが、赤外線だとあまり遮られませんから、若い星が
沢山ある銀河は赤外線だと見えやすいのです。

いずれにしてもまだ「ヒーロー」の正体はあまりよく分かっていません。
正体が分からない最大の理由は、もっと波長の長い赤外線での観測がまだ出来ていない
からで、しかもこの波長の長い赤外線は大気に吸収されてしまい、
地上には届かないのです。
宇宙科学研究所では、赤外線で天体を宇宙から観測するための、ASTRO-Fという衛星
を打ち上げに向けて準備しています。ASTRO-Fは「すばる望遠鏡」のような地上の
望遠鏡では観測出来ない、もっと波長の長い赤外線によって天体を観測します。
「ヒーロー」が、どこにどれ位沢山あるのか、その正体は何なのか、
ASTRO-Fが打ち上げられればきっと分かります。
その時、「ヒーロー」はその名前の通りに有名になるかもしれません。・・

ASTRO-Fサイトへ

現在は10〜20個位(ヒーロー)しかまだ見つかっていません。
100億光年彼方の生まれたての銀河の光かもしれません。
宇宙の始まりの頃の星の光は、赤外線でしか見れません。

― 質問コーナー ―
Q:ブラックホールの速度について?

A:山崎先生
近づくほどに速くなり、最後に吸い込まれる時には光の速度で落ちて行きます。

Q:ホワイトホールは何故見つからないのでしょうか?気が付かないだけなのでは?

A:山崎先生
皆が納得する現象が見つからないからだと思います。

・・・質問はいろいろとありましたが、編集者の判断により主なものだけ抜粋しました。
先生方にはいろいろな事を語って頂き、本当にありがとうございました。
私にとってはとても貴重な時間でした。次回も機会があれば、宜しくお願い致します。
楽しみにしています。
宇宙にご興味のおありの方は、直に科学者に質問を投げかけてみてはいかがでしょう?
ちなみに編集者も会場の皆さんの前で質問しております。
(さすがにUFO関係は聞きにくいですが、笑)
使用写真は、視点の位置で曲がってしまっていますが、どうかご了承下さい。
それでは、またの機会まで。・・グッドラック。
編集者:by緋月 



2004年2月14日公開
    

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