独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部主催
2004年度「宇宙学校」レポート1 inTOKYO

去年の秋頃に、宇宙科学研究所はJAXAに統合され、宇宙科学研究本部となりました。
晴れの寒い日、再びこの日がやってまいりまして、大変に嬉しかったです。
早速この日のレポートをしましょう。今回は初の写真付です。(笑
会場は大学構内で、このような感じです。子供から年長者の方まで出席されます。
毎年、自由な参加となっていますが、
東京の会場だけ大人の方が多いと、下で紹介している的川校長がおっしゃっていました。
子供さんの参加は、大人から見ても微笑ましい限りです。
返って大人ばかりだと緊張感があるかと思います。
このような和やかなムードは、これからも続いて行くと嬉しいものです。


開校は宇宙科学研究本部の鶴田浩一郎本部長の挨拶から始まりました。


今回校長を務められたのは、的川泰宣先生です。



テーマ☆太陽系の謎に挑む

担当教官:岡田達明先生・黒谷明美先生
 

「惑星探査機による古代太陽系の発掘」 岡田達明先生

私たちの太陽系には、9つの惑星、衛星、小さくて数万個以上もある小惑星、
壮大な尾を持つ彗星などあり、太陽の周りを廻っています。

これまでに、冥王星を除く全ての惑星といくつかの小惑星や彗星や衛星に、
人類は探査機を送り、探査して来ました。
分かった事は表面の地形や地質、平均密度などが天体によってかなり違うという事で、
原因は星の出来方やその後の星の成長や進化が違ったためです。
この違いを詳しく調べる事が出来れば今から45億年前の太陽系の様子や、
惑星の出来方を知る事が出来ます。これらは言わば、古代太陽系の化石です。
惑星探査には、惑星のすぐ近くを探査機が通過するときに観測するフライバイ、
惑星を周回しながら観測するオービタ、表面に着陸して直接探査するランダや表面の
土壌を地球に持って帰るサンプルリターンなどの手法があります。
惑星全体の特徴を調べるには、フライバイやオービタを用いますが、
古代太陽系の謎を紐解くための調査には、直接探査が必須です。

○小天体は太陽系の起源を語る
小惑星や彗星を合わせて小天体と呼びますが、これらは惑星に成長する事が出来ず、
現在まで取り残された原始太陽系の化石です。これに含まれる岩石や鉱物をを詳しく
調べれば、今から45億年前の太陽系の姿を復元出来ます。
去年の5月に打ち上げられたMUSES−Cは、「はやぶさ」と改名され、内惑星領域で
最も一般的なS型小惑星(1998SF36)に行き、まずX線や可視・近赤外分光による
リモートセンシングでおおまかな特徴を調べます。次に表面まで降下し、土壌を回収して
地球にサンプルリターンし、詳しく分析します。
尚、はやぶさの着陸ロボットにはカメラが搭載されています。

宇宙科学研究本部サイト「はやぶさ」紹介

○クレーター中央丘は惑星内部を覗き見る「窓」
月や火星、地球などの惑星は進化が進み、地殻と呼ばれる表面の殻で覆われていて、
出来た当時の姿を留めていません。惑星の内部構造や惑星の進化を知るには、地殻の
化学組成や厚さ、その下のマントルの化学組成を調べる必要があります。
隕石衝突によって出来る直径数10キロメートルのクレーター中心部には中央丘と
呼ばれる丘が作られます。これは衝突の際に地下深部の岩石が表面まで持ち上げられ、
露出したものです。ここは惑星内部の特徴を知るための直接な調査を行う絶好の場所で
す。中央丘探査を実現するために、月周回衛星「セレーネ」に続き、月軟着陸探査
「セレーネB」によるランダとローバによる地質探査の検討を進めています。・・
  
月探査情報ステーション


「宇宙と生き物」 黒谷明美先生

広い宇宙の中で生き物がいるのは地球だけでしょうか?2003年は数十年に一回の
火星大接近の年、生き物の「いた跡」を探す火星探査機の活躍が期待されます。
 (画像:地球と火星の実際の大きさの比較) 

(画像:水、二酸化炭素、可視光)
そもそも「生き物」とはどんなものでしょう?多くの生物学者は、
(1)周りとのやり取りを出来る境界を持つ
(2)周りから取り込んだ物で必要なものを作り、要らないものは外に出し、
  自分を成長 させ維持していける
(3)自分と同じようなものを作り出す
このような特徴を持つものを「生き物」であると考えています。
地球生物には共通点があります。地球生物は「細胞」と呼ばれる小さな構造で出来て
います。人間は、約60兆個もの沢山の細胞から出来ていますが、ゾウリムシのように
たった1個の細胞で出来ているものもいます。細胞は、生物の種類、体の場所や役割など
によって大きさや形は様々ですが、その基本構造は共通です。成分も共通で、
水・タンパク質・脂質などです。中でもタンパク質は大切で、細胞を作る材料になるだけ
でなく、生物が生活するときに必要ないろいろな反応をスムーズに進める「酵素」と
いう物質の成分になります。タンパク質は、一列に繋がったアミノ酸が複雑に
折れ曲がったものですが、地球生物のアミノ酸は、L型と呼ばれる構造で、20種類に
限られます。細胞にはタンパク質の設計図もあり、設計図は核酸(DNAやRNA)の
上に、アミノ酸の繋ぎ方を記号で書いたもので、この記号も全ての地球生物で共通です。
このようなことから、地球生物は全て同じ祖先から生まれたと考えられます。地球生物に
共通な物質やその使い方は、独特の「地球生物らしさ」とも考えられますが、それは、
火星など地球以外の生き物を調べないと確められません。もしかしたら、宇宙のどこに
いる生き物にも共通な「生き物らしさ」かもしれません。
生き物は、生活する環境と切り離して考える事が出来ないのも確かです。地球上に生き物
が誕生したという38億年前から現在まで、地球生物の生活の場所はずっとこの地球
でした。地球には地球独特の環境があります。1Gという重力がある、地磁気がある、
一日は24時間であるなどです。地球生物は、地球の環境に適応し進化し続け、
また生物自身が地球の環境を変える事もありました。このような地球環境は、生き物を
「地球生物らしく」するのにどんな役割を果たしているのでしょう。・・

黒谷先生、前回より硬い考えを和らげられたような印象です。
黒谷先生は、宇宙学校では定番の先生です。私は3回出席しましたが、黒谷先生以外、
毎回メンバーが変わります。先生は「宇宙生物学」をやっておられます。
宇宙生物、ではなく、宇宙環境下で地球の生物について調べる学問で、言わば、
地球の生物についてもっとよく知るというものであります。
毎回同じような話になってしまうとこぼしておられましたが(笑)、
先生のお話は毎回工夫されていて面白いです。
話は変わりますが、先生のご提案によりミール内で実験が行われた時の日本アマガエル
の写真です。
  
左が ”宇宙で反りカエル”です。右が空中遊泳している日本アマガエルの姿です。
カエルが反り返る姿は地球上のカエルでは吐き出す姿勢で見られ、
空中遊泳は、地球上では高い所からジャンプする時に見られる姿勢です。
また、ミール内での動画で、カエルが着地すると後ずさりする行為が見られます。
他に木に登らないアフリカツメガエルの実験では、水中の無重力内で、
しきりにスピンする現象が見られます。
日本アマガエルの空中遊泳スピンの動画には、会場がどっと笑いに包まれました。
人がスカイダイビングしているかのようです。(笑
地球生物以外の生き物がいたら会ってみたい、と先生はおっしゃっていました。

― 質問コーナー ―
Q:太陽系が出来たのはどうして45,6億年前なのですか?

A:岡田先生
隕石の放射性同位体で、太陽系が出来た頃の年代が分かる。
隕石の元素の中に、原子、陽子、中性子、電子があり、その中性子の数が違う事を同位体と
言い、核反応を起こして標準に戻る事を放射性同位体と言います。
それがどれ位崩壊したか、複数での共通的な範囲を見て測定出来ます。

Q:木星について?

A:岡田先生
木星は非常に多くの気体のガスが覆っており、固体の地面はずっと中の方にある。
探査機が着地するとしたら、水素の海か金属の地面になるでしょう。・・

Q:他の星でもオーロラ現象はあるのですか?

A:鶴田本部長
磁石になっている惑星は必ずオーロラ現象があるでしょう。
色は惑星の特徴により違うでしょう。

その他、的川校長より、のぞみ火星探査機の失敗の件について、
のぞみの失敗でしっかりと反省をし、今後の探査に生かし、挑戦する構えです。
のぞみは太陽の周りを廻る人工惑星になりました、とのコメントがありました。
編集者の私としては、探査は大賛成です。何と言っても宇宙は大好きなので。
これからも質の高いレベルで、どうぞがんばって下さい。応援してます。

以前のレポートより長くなりましたので、
ページを分ける事に致します。
編集者:by緋月 

次へ(宇宙を拓く技術)


2004年2月14日公開
    

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