独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部主催
2008年度「宇宙学校」レポート1 inTOKYO

皆様、お待たせしました!お久しぶりです。参加したのは前回から実に3年ぶりです。
この日ばかりは何故か快晴になります。
去年より、日本の月周回衛星の「かぐや」が大活躍していますので、今年は参加者も
多いような気がしました。東京では大人の参加が圧倒的に多く、子供たちの参加が極少
ないのが少々残念に思いました・・。今回は家の娘も小学生になり、少しでも宇宙に
興味を持ってもらう為に一緒に参加しました。他にも家族連れの方が増えると嬉く思い
ます。今年も宇宙学校のポスターが凝っていました。
キャンパスの木の風景も映り込んで・・なかなかでしょうか?
宇宙に夢中・・!



開校の始まりは、的川泰宣校長のご挨拶からです。
的川先生にお会いしたのは二度目になります。お久しぶりです!


それでは講義の時間に入ります。

「 ロケットと惑星探査 」

★宇宙ロケットと“流れ”のお話 担当講師:嶋田 徹先生



宇宙ロケットは遠い宇宙まで人工衛星や探査機を運ぶのが役割です。
小惑星「イトカワ」に到着し、今地球に戻る途上にある探査機「はやぶさ」も
地球から飛び立つときは、M-X(ファイブ)ロケットに運ばれました。


宇宙ロケットはどうして宇宙まで飛んでいけるのでしょうか?それは宇宙ロケットが
宇宙に出られる速さまで加速できるからです。他の乗り物と宇宙ロケットの速さを
比べてみましょう。

宇宙ロケットの速さに驚くでしょう!では、ロケットは何故そんなに速く飛べるので
しょうか?まず、運動について考えましょう。
運動の速さを変えるには力が必要になります。速さの変えにくさの程度を質量(慣性質
量)と呼び、運動の激しさは、質量と速度(=速さと向きを持つ量)を掛け算した運動
量で表されます。
ある時間の間に一定の力を物体に働かせると、力と時間を掛けた量だけ運動量が変わる
という性質があります。これは、ニュートンの運動の第2法則と呼ばれています。
地上の物には質量に比例して下向きに働く引力(重力)が働きます。ロケットは引力
よりも大きな力を逆向きに働かせて地上から飛び立ちます。この力を推力と呼びます。
皆さんは、膨らませた風船の口を開いて手放すと、中の空気が抜けながら風船が飛ぶの
を見た事がありませんか?ロケットはこれと同じ原理で推力を出しています。
風船の中に空気を吹き込むと、風船の壁には内から外に向けて圧力(内圧)が働きま
す。また外の空気からは外圧が働きます。内圧が外圧よりも大きいと風船が膨らみま
す。但し、普通の風船のゴムは弱いので大きな内圧に耐えられず破裂してしまいます。
宇宙ロケットでは推進剤と呼ばれる物質をロケットいっぱいに積み、それを燃やす事で
空気の代わりになる気体を作ります。燃焼室の中で推進剤を燃やすと、高温の燃焼気体
が大量に発生します。宇宙ロケットの燃焼室は内圧が大気の50倍や100倍になっても
耐えられるように設計されています。

ロケットの後ろ側にはノズル(出口)が付いていて、そこから燃焼気体を噴出します。
燃焼室内では燃焼気体の温度は高いのですが、速度が小さいので運動量はほとんどあり
ません。しかし、ノズルを通ってロケットの後ろ方向に流れていくにつれて、燃焼気体
は膨張して温度が低くなり、代わりに後ろ方向に速くなって、運動量が急激に増加し
ます。こうしてロケットから力を受けたと考えることが出来ます。
さて、運動量保存の法則によると、初めロケットと推進剤が合わせ持っていた運動量
と、ロケットと燃焼気体に分かれた後のそれぞれの運動量の合計は変わりません。その
為、燃焼気体で増えた運動量と同じ大きさの運動量が、ロケットでは逆向き(前向き)
に増加します。こうしてロケットは燃焼気体から前向きの力を受けます。
これがロケットの推力です。ロケットが燃焼気体を加速する力と、燃焼気体がロケット
に及ぼす推力とは、大きさは同じですが向きが反対です。
この性質を作用・反作用の法則(ニュートンの運動の第3法則)と呼びます。



こうして宇宙ロケットは燃焼気体を加速する流れを作って推力を生み出します。この
推力が地球の引力に打ち勝つことで飛び立ち、引き続いて推進剤が次々に燃焼気体を
作って推力を出すことによって加速していきます。更にロケットを何段かに重ね、使い
終わった段を棄てることで全体の質量を減らしつつ、最後には宇宙に出られる速さに
加速していくのです。

地上からロケットが発射されて大気圏外まで到達する様子です。秒数の世界でどんどん加速し、鹿児島付近
があっという間に遠くなって行きます・・↓








このように、宇宙ロケットにとって“流れ”はとても重要なのです。

嶋田先生、ありがとうございました。


★「太陽から吹く風と磁石惑星」 担当講師:松岡 彩子先生



地球が大きな磁石であることを知っている人は多いと思います。方位磁針のNとある方
が北を向くのは、地球が磁石の力で磁針を引っ張っているからです。
一方、太陽系の中の太陽と惑星の間、あるいは惑星と惑星の間は、正確にいうと何も
ない真空ではなく、太陽から吹き出た薄いガスが、毎秒400キロメールもの高速で外
側へ向かって吹いています。これを太陽風と呼んでいます。唐突に聞こえるかもしれま
せんが、地球が磁石であるということと、この太陽風の間には深い関係があります。


太陽風の薄いガスの正体は、電気を持った粒々です。主に、正の電気を持った水素と
負の電気を持った電子とで出来ています。電気を持った粒々で出来た気体を「プラズ
マ」と呼んでいます。プラズマ太陽風はとても薄く、地球の近くを通り過ぎていく時に
は、1立方センチメートルあたり、僅か数個の粒しかありません。
プラズマは強い磁石があると、その近くに近寄れない特徴があります。地球は磁石なの
で、太陽風は地球の近くに来ることが出来ません。地球を避けるように通り過ぎて吹い
ていきます。しかし、太陽風プラズマのほんの一部は、強い磁石の壁を乗り越え、地球
の近くにやって来ます。地球の近くに来たプラズマは、北極や南極にオーロラを光らせ
たり、放射線帯という、人工衛星を壊すこともある放射線の溜まり場を作ります。





では、地球以外の惑星はどうなのでしょうか。木星や土星は、地球よりずっと強い磁石
です。地球のように北極や南極でオーロラが光り、地球よりずっと強い放射線帯があり
ます。



金星は磁石ではありません。オーロラは光らないし、放射線帯もありません。水星は
弱い磁石です。弱過ぎるので、放射線帯は無いと考えられています。オーロラが光るか
どうか分かっていませんが、地球と違った色のオーロラが光っているかもしれません。



宇宙航空研究開発機構がヨーロッパと協力して2013年に打ち上げる、ベピ・コロンボ
磁気圏探査機と、表面探査機で詳しく調べる予定です。

火星も弱い磁石なのですが、
水星とは様子が随分違います。水星は地球と同じように、北極がS極、南極がN極なの
ですが、火星は表面に小さなS極とN極の対が散らばっています。オーロラも放射線帯
も無いのではないかと考えられています。

惑星が磁石だったり磁石で無かったりするのは、惑星の中がどうなっているかによって
決まります。地球や水星の中には、溶けた鉄で出来た部分があって、自転によってぐる
ぐる回って磁石になっていると考えられています。木星や土星の中では、液体の水素が
ぐるぐる回り、磁石になっていると考えられています。

惑星が磁石かそうで無いかで、太陽風が避けていくか、いかないかの違いがあります。
もしも地球が磁石でなかったら、太陽風が私たちの頭の上のところまでやって来たこと
でしょう。
そうしたら、私たちの住む地球の環境は、今あるものと違っていたかもしれません。

松岡先生、ありがとうございました。

編集者:by緋月

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2008年7月2日公開
    

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