独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部主催
2008年度「宇宙学校」レポート2 inTOKYO

「 宇宙と生命 」

★見えない光で見る宇宙 担当講師:阪本 成一先生



人間はものを調べるときに「五感」を働かせます。五感とは、目で見る、耳で聞く、鼻
で嗅ぐ、舌で味わう、手で触れる、という感覚のことです。人間は普段の生活では、目
で見るだけでなく他の感覚もいろいろ使っているのです。
例えば、砂糖水と塩水は見た目は同じですが、舐めてみればどちらが塩水かすぐ分かり
ます。紙袋の中に入ったおやつも、鼻をくんくんさせれば何が入っているのか、だいた
い分かります。缶コーヒーも、見た目ではホットかアイスか分かりませんが、触ってみ
ればどちらか分かります。ポリポリという音を聞けば、襖の向こうで誰かがおせんべい
を食べてことも分かります。

けれども人間の能力には限界があるので、もっと詳しく調べるには道具を使います。
例えばサーモグラフィを使えば触らなくても温度が分かりますし、スーツケースの中身
はX線検査装置でくまなく調べられます。水質検査薬を使えば水の汚れが分かります
し、声紋分析器を使えば電話の声の主が誰なのかを突き止めることも出来ます。

では、宇宙を調べるのにも同じ方法が使えるのでしょうか?宇宙は真空ですから音は
伝わりませんし、何万光年も彼方にある天体まで出掛けていって温度計や検査薬で調べ
ることは出来ません。
天文学者に出来る事は、ひたすらその天体を遠くからよく「見る」ことだけです。
よく「見る」ために天文学者はいろいろな工夫をします。
ある人たちは大きな望遠鏡を作ります。130億光年の彼方の、それまでおぼろげに点
として見えていたものが、ひとつの形ある銀河として見えるようになります。
別の人たちは、望遠鏡にプリズムのような装置を取り付けて、天体からのスペクトルを
詳しく調べます。スペクトルに隠されている原子や分子の「声紋」を調べる事で、そこ
にどんな原子や分子がどれだけあるのかを知る事が出来ます。スペクトルのずれを測る
事で、天体の動きを見ることも出来ます。



あるいは、望遠鏡に暗視カメラやサーモグラフィやX線検査装置のようなものを取り
付けて「見えないひかり」を見えるようにして、光を出していない天体を見つけたり、
天体の温度を測ることも出来ます。実際には地球に空気がある為、地上に届くのは目に
見える光や電波など、天体からの信号のごく一部が宇宙に飛び出すと、X線や赤外線
などのさまざまな「見えないひかり」をとらえることが出来るようになります。


それでは宇宙に飛び出して「見えないひかり」で宇宙を見ると、どんなものが見えて
くるのでしょうか。天文学者たちの挑戦と、それによって見えてきた新しい宇宙の姿を
紹介します。


 
太陽観測衛星「ひので」(左)。「ひので」がとらえた太陽のX線画像(右)。
太陽表面の爆発の様子がよく分かります。


もっと近づいて見ると、まさに太陽は生きもののように見えて来ます・・


オリオン座の光学写真(左)と「あかり」がとらえた同じ場所の赤外線画像(右)。
赤外線で見ると、星の生まれる元となるガスと塵の雲が見えてきます。 


天の川が燃えるように見えます。銀河系中心は活発に光を帯びています。 


「すざく」衛星が発見した新種の巨大ブラックホール(右)。
ブラックホールは、ほぼ球体の厚い塵の雲に囲まれている。
巨大ブラックホールの統一モデル(左)。
ブラックホールは、ドーナツ状の塵の雲に囲まれており、見た目の多様性は見る角度の違いによる。
既に約10万個が知られ、深く塵に埋もれたブラックホールは初期宇宙のブラックホールの「生きた化石」
の可能性がある。
  

電波天文衛星「はるか」は、1997年2月に打ち上げられて以来、8年以上の観測を続けて、
2005年の11月を最後に運用を終了しました。 


「はるか」に代わって次期を担う開発中の電波天文衛星です。 



上の表を見ると、ラジオ電波を出す星は私たちの銀河系内で40光年から50光年先で
比較的多く見つかっているようです。現在知られている、私たちの太陽系外の惑星の数
は276個。同じく惑星系の数は237個です。

次のページでも紹介する月周回衛星「かぐや」で地球のラジオ電波を観測すると、
月の表側(下表右側)を飛んだ時と裏側(下表左側)を飛行したときとの違いが
よく分かります。
 

阪本先生、ありがとうございました。

宇宙科学研究本部サイト 太陽観測衛星「ひので」

宇宙科学研究本部サイト 赤外線天文衛星「あかり」

宇宙科学研究本部サイト X線天文衛星「すざく」

宇宙科学研究本部サイト 電波天文衛星ASTRO-G  


★「火星でのくらし −宇宙で農業−」 担当講師:山下 雅道先生



●火星で生きるために
地球の外側を周る太陽系の赤い惑星、火星の地下にはひょっとして生物がいるかもしれ
ません。或いは、昔に生きていた生物の化石があるかもしれません。火星の表面は凍る
ほど寒く、空気も薄いうえに、呼吸に充分な酸素もありません。
私たちが火星にいって生物探査をする前に、私たち人間が火星で生きていく方法を考え
なくてはいけません。地球から火星を往復するには短くても3年かかります。生きる為
には物を無駄に出来ず、再利用することになります。




●火星で農業!
そのために、火星の土(レゴリス)や岩石、大気、地下で凍っている水なども使い
火星で農業をします。
植物を育てて二酸化炭素と水から酸素と食料を作ります。植物が太陽光を受けて栄養素
と酸素を作るのにあわせて、その葉から大量の水が蒸発します。
この水を回収して利用します。

●火星でゴミを出さない
私たち人間の排泄物や食材で食べられないところは高温好気堆肥菌(堆肥を作る細菌)
が肥料に変えてくれます。台所で動かす生ゴミ処理機の中には高温バイオ式という装置
があります。私たちはこの機械を使い、将来の火星でゴミからどのように肥料を作るか
を調べています。

●火星での食料と服
米・大豆・芋・野菜を育てます。しかし、植物だけでは栄養が偏るので、動物の肉も
食べなければなりません。そこでクワの木を植えて、クワの葉でカイコを飼います。
カイコのサナギを人間が食べるのです。毎日50グラムのカイコを食べると、そのマユ
から1年で着る物の一式を作れるだけの絹がとれます。





●宇宙農業の作物
私たちは料理の味付けに、塩やしょう油を使います。その中に含まれているナトリウム
は植物の肥料にするには取り除かないといけません。そのような働きをする植物として
海草の「アオサ」や、塩があっても成長する「アイスプラント」を育てて利用します。

葉や茎の表面の透明な丸い部分にナトリウムを蓄えます。
塩味のする佐賀県特産の野菜です。


カイコは5000年位い前から家畜にされてきた昆虫です。クワの葉を食べて大きくなり
マユを作ります。マユは一繋がりの細い繊維で作られていて、その長さは1q以上も
あります。
火星ではマユの中でサナギになったカイコを食べるのです。皆さんの中にはエビやカニ
が好きな人がいるでしょう。昆虫はエビやカニと近い間柄です。カイコを食べてみると
エビやカニと同じような味がするのです。

松岡先生、ありがとうございました。
編集者の私としましては、火星へ移住する計画はあまり気が進みません。
それにしても、日本食はバランスの良い食事だと思います。
宇宙飛行士が宇宙食で食べられるようになるとよいですね・・。
物を無駄にしないという事は、地球上でも不可欠になると思います。

いよいよ次は月周回衛星「かぐや」の話題です。

編集者:by緋月

次へ(月の謎に迫る‘かぐや’)


2008年7月2日公開
    

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