独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部主催
2008年度「宇宙学校」レポート3 inTOKYO

「 月の謎に迫る“かぐや” 」

 担当講師:加藤 まなぶ先生



この講義は少々編集に苦労するかと思いますが、
よろしくお願いします。圧倒的に一番の画像を残した講義になりました。

前の阪本先生の講義とダブりますが、まずはこのショットから・・
おおまかに紹介しますが、月周回衛星「かぐや」の構成です。
「かぐや」は、子衛星の「おうな」と「おきな」を伴っています。


ハイビジョンカメラでの撮影風景です。


メンデレエフ付近。撮影2007年12月7日。高度、月面上約94〜97km。 


コペルニクス。撮影2007年12月19日。高度、月面上約116〜118km。 


アリスタルコス付近。この画像はもう目標から遠ざかってしまっていますが、鮮明なものを選びました。
高度、月面上約114〜118km。 

皆さんは月の事をどのくらい知っていますか?
月にまつわる話では、1969年から1972年まで行われたアポロ宇宙計画は有名です。
1969年、人類は初めて地球以外の天体の上を歩きました。それが、月です。 
NASA(アメリカ航空宇宙局)がすすめた「アポロ計画」では、宇宙飛行士が月面で
様々な調査や実験を行いました。その結果、月は地球と同じおよそ45億年前に
原始太陽系星雲のほぼ同じ場所でつくられたこと、38〜40億年前に巨大な隕石が
降り注ぎ、巨大なクレーターが出来たことなどが分かりました。
なかでも、合計387kgもの月の石を持ち帰ったことは、大きな成果となりました。
それまでは月の表面を撮影するなど、観察するだけでしたが、月の石を直接調べること
が出来たのです。
でも、月にはまだまだ、分からないことがいっぱいあります。 


月の大きさは地球の1/4の大きさです。衛星を持つ太陽系の惑星の中で、惑星と衛星
の大きさの比率をみると、月はとても大きい衛星になります。例えば火星の二つの衛星
フォボスとダイモスは、火星の1/100の大きさしかないのです。


地球の内部は、コア(核)とマントルに大きく分かれています。コアは鉄やニッケルで
できたかたまりです。マントルはコアの周りを包む層で、地球の内部をゆっくり動いて
います。月も地球と同じようなつくりになっているのでしょうか?
月の石の成分の研究から、月が誕生した頃にはマグマ(岩石がどろどろに溶けたもの)
の海があったと考えられています。でも、本当に月にマグマの海があったのでしょう
か?また、それはどのくらいの規模だったのでしょうか?


地球では磁石が南北の方向を教えてくれます。これは、地球全体に磁場があるためで
す。月には地球のような磁場がありません。しかし、アポロ計画で持ち帰ってきた月の
石を調べると僅かに磁力があり、かつて月に磁場があったことが分かりました。月で
磁場を発生させた仕組や、何故それがなくなってしまったのか、大きな謎の一つです。
 
地球から見えない月の裏側はどうなっているのでしょう?
月をよーく目を凝らして見てみると、月には明るいところと暗いところがあります。
月の明るい部分は「高地」と呼ばれ、暗い部分は平らな地形で、水はありませんが
「海」と呼ばれています。
また、地球からは月の表側しか見えません。地球から見えない月の裏側は、表側とは
随分違います。裏側は隕石の衝突でできた山の噴火口のようなデコボコ(クレーター)
が沢山あります。最近では地下のつくりも違うことが分かってきました。
どうして表と裏で地下のつくりが違うのか、それも謎の一つです。 
 

「かぐや」が調べることは、月全体を、これまで行われた探査よりも更に詳しく調べ、
月がどのようにして誕生し、現在の姿になったのか、月はどのような環境なのかなどを
明らかにします。
地球ではいつもどこかで火山が活動し、地下ではマントルが対流しているので、
絶えず変化しています。そのため、地球の始まりの姿が残っていないのです。
地球と月が誕生したとき、二つの天体はとても高温でどろどろのマグマの海で覆われて
いました。地球より小さい月は地球よりずっと早くマグマが冷え、月が誕生した当時の
姿を残していると考えられています。
月を調べることは、地球の初期の様子や、地球がどうやって誕生したかを調べることで
もあるのです。

月の起源としては、現在4つの説があり、地球に火星サイズの原子惑星が衝突して、
その破片が月になったとする「ジャイアントインパクト説」、
地球の自転の勢いによって、地球から物質が飛び出して月ができたとする「分裂説」、
他の場所でできた月が地球の重力で捕らえたとする「捕獲説」、
月と地球は同じ場所で同じ時期に成長したとする「共成長説」などがあります。

左、ジャイアントインパクト説のシュミレーション。  
 
地球には大気がありますが、月にはありません。そのため、太陽の光は月の表面に直接
届いています。「かぐや」は約1年間、月の周りを回りながら、いろいろな観測機器を
使って、太陽が月にどんな影響を与えているかなどを詳しく調べます。このような観測
結果は、将来、月面基地をつくるなど、人類が月で活動するための重要な情報にもなる
ことでしょう。 
 
「かぐや」には、月以外の観測を行う機器も積まれています。月は太陽が地球に与える
影響を調べるのに、一番良い場所です。例えば、太陽の影響によって地球の北極と南極
あたりで発生するオーロラの活動を、月から同時に観測します。また、地球ではテレビ
や携帯電話などの電磁波が飛び交っているため、宇宙からの電磁波を調べるのは困難で
す。しかし、月は地球からの電磁波を受けないので、宇宙の様々な電磁波を調べるのに
とても良いところです。
また、ハイビジョンカメラで、青く美しい地球が月の地平線上に現れる姿を、
綺麗な映像で撮影します。 



「かぐや(SELENE)」の月までの道のり
2007年9月14日に打ち上げられ、スイングバイ航法によって地球を2周し(約2週間)、
月の周回軌道にのせるまでに月の周りを4周する(約2週間)。
その間に、2周目でリレー衛星「おきな」分離、3周目でVRAD衛星「おうな」分離。
「かぐや」は、2007年12月21日から定常観測開始する。


リレー衛星「おきな」の役割。主に月の重力場を測定をする。




VRAD衛星「おうな」の役割。主に月の重力場を精密決定する。

 
月に接近しています。



月の地形がはっきりとして来ましたね。


ハイビジョンカメラ機器の画像です。

地球から見える月の表側の北半球左側に位置する「海」である「嵐の大洋」の西側を、
南から北へ飛行しながら撮影。画面右側の暗い部分が「海」、左の明るい部分が
「高地」と呼ばれる部分です。
(下)2007年10月31日撮影 





月の表側「嵐の大洋」の北にあたる部分から北極に向かって飛行しながら撮影。
北極に近く緯度が高いため、太陽光線の差し込む角度が低くなり、
クレーター地形の影が長く写っている。
(下)2007年10月30日撮影。北極付近。高度は月面上、約100km。



北極の永久影の部分(↑)。氷があるのではないか?と思われる・・

ハイビジョン画像の最後の紹介は、月から見た地球の姿です・・
地球と比べると月の表情は生命活動が感じられない、とても淋しい場所ですね。
太陽の一番近くを周回する水星と表情がとてもよく似ています。
2007年11月7日撮影。


以下にミッション機器についての画像説明をします。

地形カメラは2つの斜方視望遠鏡の構造になっています。 

月の裏側、南極点から約30kmの位置。2007年11月3日撮影。
地形カメラの立体視データから作成した3次元地形画像。↓ 


実に凹凸の様子がリアルですね。 


マルチバンドイメージャーは2つの直下視望遠鏡の構造になっています。 

月の鉱物分布や宇宙風化作用の進行度を解析します。 


スペクトルプロファイラ(SP)は月面からの可視近赤外域連続反射スペクトルを
観測する分光計で、鉱物の種類や量を推定します。 





前ページの講義でも重複した画像データです。↑
左側が月の裏側、右側が月の表側の観測データです。 

 
月の地形図を作成します。
 

月の地質構造のデータを収集します。 


以上を踏まえて、かぐやは実に色々な機器を搭載しています。
月のことを詳しく調べられる様子が分かりますね。
アポロ計画以来、どんな画期的な新発見があるのでしょうか?これからも楽しみです。


「かぐや」は、キャンペーン企画で国内外から一般募集で集めた名前とメッセージを
載せたネームシートを月の地上に落としました。
大きさは28センチ×16センチ程度のものです。 

加藤先生、ありがとうございました。

JAXA 月周回衛星「かぐや」の画像ギャラリー
編集者:by緋月

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2008年7月2日公開
    

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